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schemaのメグさんとコラボをしました第三弾です^^*
SSメグさん 挿絵hekiu です。
お誘いありがとうございました。
メグさんの芯の強い愛の詰まったお話が大好きです。
3/4追記
志良さんが続きのお話を書いてくださいましたので、一緒に掲載させていただいております!
真ハム好きさんは是非どうぞ^^*
作品はつづきからどうぞ!
SSメグさん 挿絵hekiu です。
お誘いありがとうございました。
メグさんの芯の強い愛の詰まったお話が大好きです。
3/4追記
志良さんが続きのお話を書いてくださいましたので、一緒に掲載させていただいております!
真ハム好きさんは是非どうぞ^^*
作品はつづきからどうぞ!
唐突に全てを思い出した。
それは手にした薙刀を振り下ろそうとした瞬間のこと。仲間の想いを受け止め力に変えて、全力で振り下ろそうとした瞬間のこと。
これで、確かに世界が救われるということを。これで、確かに世界が“終わり”であることを、一瞬にして悟ったのだ。
そしてこれが、三度目であることも。
(……あなたも相当、しつこいんだね)
しかし少女は振り下ろす薙刀の速度を変えない。躊躇一つしない。口元には笑みすら浮かんでいた。
刃はまるで吸い込まれるように、闇に潜む者へと落ちてゆく。まさに頂へ達しようとしたその瞬間、
少女の身を包むような咆哮がビリビリと空気を振動させた。少しだけ目を顰める。が、それもすぐに微笑みへ変わる。
まるで赤子を見つめる母親の様な眼差しへ。
「何故、って?」
あと一二〇度、あと九〇度。
「ううん、別に世界を救いたいとかそんな大それた正義を振りかざしてるわけじゃないよ」
あと六〇度、あと四五度。
「ただ、わたしの手が届く範囲は守りたい。わたしのかけがえのない大切な友達を助けたい」
あと三〇度、あと一五度。
「大好きな人を、守りたい」
あと六度。
「……それで、十分でしょう?」
零――。
*
還ってゆく自分自身の身体を見つめながら、ぼんやりと地面……と呼ぶには相応しくない、ただの暗がりに座り込む。
いつから自分はこちら側になってしまったのかなんて分かりきっている疑問を投げかけて、自嘲気味に笑った。
「……だって、ここは私の世界じゃないから」
だから、この世界の身体はこの世界へ還ってゆく。
けれどこの記憶は“少女の世界”から持ってきたもので、役目を果たした以上この世界へ還れない。
だから少女はここへ残る。時が来たら、新たな世界へ旅立つために。
あの身体には当初、本来の少女が備わっていた。
何も知らない、その身に封じられた影の存在を知らず、またそれを解放するための鍵となる能力を持たないただの少女。
だが久方ぶりに巌戸台へ訪れ、影時間に足を踏み入れた瞬間、少女は出会った。
影を解放する鍵。宇宙の意思、ワイルドの能力者たる少女自身と。
否応なしに身体はもう一人の少女を受け入れる。だがもともと、身体は一人を納めるだけの容量しか持ち得ていない。
空気を詰め込み過ぎた風船は破裂し、砂を詰め込み過ぎた袋はいずれ破れるだろう、それと同じだ。
力を得るたびに、容器である身体は軋み、ヒビが入っていった。
そうして最後あの瞬間。絆を結んだ皆から膨大な力を得、刃を振り下ろしたあの瞬間に。
少女を納める容器が音を立てて割れたのだ。
「でも、約束があるもんね」
すいと水を掬うように手のひらを裏返す。若干の肌色を残していたが、ほぼほぼ透明だった。
我先に飛び出して、続こうとする記憶をそのまま押し留め、帰した。
S.E.E.Sのリーダーとして戦った記憶を取り除き、他全ての記憶を少女の身体に預けたのだ。
しかし結局のところ、割れた容器は戻らない。
時間が経つにつれ、徐々に徐々に残った少女も容器から零れ落ち、ここで待つ少女の元へと戻ってくる。
戻るたびに、今は半透明であるこの身体は色を取り戻してゆく。
そうやって最後、完全に色を取り戻した時。身体から少女の全てが零れ落ちたその時に。少女は再び旅立たねばならない。
別の容器の中へ、新たな世界へ旅立たねばならない。
(大丈夫。ふた月もあれば、だいじょうぶ)
力は全て持ってきた。恐らくあの身体は、生活することがギリギリ可能であるレベルの力しか持ち得ていない。
だから急に揺さぶられたとしても、大きく零すことはないだろう。
それに、少女には彼がいる。きっと傍で支えてくれる。
(…………)
投げ出していた両足を手繰り寄せ、きゅっと太腿の裏へ両手を回す。
(……先輩)
顔の近くまできた両膝に、自身の瞼をあてがった。こうして目を瞑っても浮かんでくる、精悍な顔つきをした少年。
(せんぱい、元気かな……)
――……心配するな
懐かしい声。つい先ほどまで耳にしていた声。
触れば一瞬のうちに掻き消えてしまう、雪の結晶のように。その声ははらはらと舞い、少女の透けた肌に溶けてゆく。
――俺たちは必ず勝つ。勝って、この世界を存続させる。俺たちは皆、一緒に同じ未来を歩むんだ
いつでも自信に満ちたその顔が、少女はとても好きだった。
己の拳と大切な仲間、そして少女のことを、どこまでも信じくれる少年のことが好きだった。
――俺とお前は、ずっと一緒に未来を歩むんだ。なぁ、そうだろう?
どの世界へ行っても少年は少年だった。少女の知る少年でいてくれた。だから少女は、何度でも恋をした。
別の選択肢を選べば、少しは状況が変わるかもしれない。終わりのない旅に、もしかしたら終止符を打てるかもしれない。
そう、考えたこともあった。
だが、結局何一つ変わらなかった。変えることができなかった。
――母似香
大好きなその声で、少女の名を愛おしげに呼ぶ。それを耳にしてしまうと、もうなんでもいいと。
彼と出会い、そして共にあれるならなんだって構わないと、愚かにもそう思ってしまうのだ。
少女には、少年との未来は有り得ない。少年と共に在ることを許されているのは、繰り返される三三四日間。
……いや、少女がここに取り残される期間を除けば、約三〇〇日といったところか。
次に少年と出会う時、少女はこの世界での記憶を閉じる。そして再び記録を開始する。
かつてと全く同じ選択肢を選びとり、かつて歩んだ道を辿る。その先に待ち受けるのは、やはり全く変わることのない運命。
――母似香、戻ってこい……!
ああ、何度耳にしただろうその言葉。これから先、何度耳にすることになるのだろう。
「ごめんねせんぱい。もう、戻れない」
膝の頂に泉が湧き、生ぬるい温度の川が肌を滑る。
「もう戻れないの、せんぱい……」
少年はやがて青年となり、限りある未来を彼自身の足で歩いてゆくだろう。
どんな悲しみも苦しみも、その足で乗り越え走ってゆくのだろう。その先を、この目で確かめられないのはとてもとても残念だけど。
(その代わり、先輩の今はわたしが守る)
今がなければ未来は決して訪れない。絶対に軽んじてはいけないこの瞬間。
(絶対に、何度でも……守って見せるから……!)
顔を上げ制服の袖で両目を擦り、腰を上げて背伸びをするかのようにすっくと立ち上がる。
徐々に実体を帯びてゆく自分自身の身体を見つめ、深呼吸。そしてうむと頷いた。
目の前には、もはや見慣れた青の扉。向こう側にはきっと、何一つ変わらない、新しい世界が広がっているのだろう。
「さてと、いきますか!」
腰につけていた召喚器も、手になじんだ薙刀もいつのまにやら消え失せた。少女の小さな身体一つで、守るべき世界へ乗り込んでいく。
少女は少女として何度でも生まれ変わり、少年と出会い続ける。それが、少女と宇宙が交わした約束。少女の世界と引き換えに交わされた契約。
宇宙で瞬く星の数だけあなたの世界があるのなら、それら全てをわたしがこの手で守り抜こう――。
ドアノブへ手をかけ、再び瞼を閉じる。頭のてっぺんからつま先まで、もうどこを探しても透けている箇所は見当たらなかった。
ゆっくり右に回すとガチャリと音が鳴り、扉はいとも簡単に開け放たれる。右足から一歩を踏み出し、そして、
(おやすみなさい、せんぱい)
光の渦へ、吸い込まれていった。
おやすみ。おやすみ。またいつか。
話したりないこともあるけれど。
続きはまた今度、次の世界で出会えた時に。
「あ、そうそう。前に名前だけは言ったと思うが、彼が真田君だ」
おやすみ。おやすみ。ありがとう。
どうしても忘れられないことがあるんだ。
あなたがくれたその微笑み、
「よろしくな」
この心には今も昔も、いつまでも。
まるで朝焼けの空に瞬く星のよう。
いつまでも輝き続けているのです――。
宇宙の約束
She said, "I cannot return any longer."
目覚めは決して良くなかった。良い夢とは、言い難いだろう。
内容を思い返して、ふと、真田は動きを止めた。深く険しく刻まれた眉間の皺が、解け――苦い笑みが、頬を彩る。
逢えた、声を聞けた、という喜びは、それが夢の中に限定されるという現実にすぐ押しつぶされた。
目覚めたこの世界のどこにも彼女は存在しない。容赦のない事実が、失望とともに胸を満たしていく。
彼女の声を聞いたのは、何時以来だろう。
その答えを探して彼は記憶を遡り、おそらく永遠に癒えることなどないであろう傷口に辿り着く。
あのとき確かに彼女の命は失われた。だが、それが一般に言う「死」ではないことを、今の真田は知っている。
彼女はあの一年を、永久に繰り返す。それが世界を護るための代償。
メビウスの環にとらわれた彼女の時間が、彼の時間と交わるのは2009年だけ。卒業式のあの日、3月5日に二人は切り離された。
想いと絆だけを残して。
「ごめんねせんぱい。もう、戻れない」
はっきりと、胸の奥に残る、彼女の声。
「もう戻れないの、せんぱい……」
――泣いていた。
泣きながら笑おうとしていた。繰り返す2009年を受け止め、受け入れようとしていた。
伸ばした手も声も届かず、ただ光に飲み込まれたけれど。
「母似香」
声にするたびに、その音は彼の心を苛む。約束を何一つ守れなかった。守るつもりで守られていた。
思い返すほど、確かめるほど、己の無力さを思い知る。
抱えすぎた想いに、いっそ彼女とともにこの心が死んでしまえば良かったのに、と思い詰めたこともある。
だが、今は違う。
その心こそが、生きるもの全てが抱える心こそが、世界の法則を乗り越え、破壊して奇跡を呼ぶことを、真田は知っている。
その目で見、体験してきたことだ。
強い想いこそが、想いだけが、運命も契約も約束も全て塗り替えていく。辿り着いた世界の真実は、そのまま彼女を救う鍵になる。
だから、彼は諦めない。想いを捨てない。
「お前らしくないな」
胸元で握りしめた拳の奥、古来より心が存在すると言われている場所が、少しだけ軋んだ。
「話したいことが沢山あるんだ、だから」
暗く沈んでいた部屋に、朝日がじわりと差し込む。
輪郭がぼやけだした窓を睨むように見つめて、真田はただ真っ直ぐに言葉を紡ぐ。
「絶対に、叩き起こしてやる」
お前がそれを運命だと諦めるなら。約束だと納得するなら。その場から逃げ出せないと思っているなら。
それはお前の思いこみで真実ではないと――
希望について
――俺は、語ろう。
それは手にした薙刀を振り下ろそうとした瞬間のこと。仲間の想いを受け止め力に変えて、全力で振り下ろそうとした瞬間のこと。
これで、確かに世界が救われるということを。これで、確かに世界が“終わり”であることを、一瞬にして悟ったのだ。
そしてこれが、三度目であることも。
(……あなたも相当、しつこいんだね)
しかし少女は振り下ろす薙刀の速度を変えない。躊躇一つしない。口元には笑みすら浮かんでいた。
刃はまるで吸い込まれるように、闇に潜む者へと落ちてゆく。まさに頂へ達しようとしたその瞬間、
少女の身を包むような咆哮がビリビリと空気を振動させた。少しだけ目を顰める。が、それもすぐに微笑みへ変わる。
まるで赤子を見つめる母親の様な眼差しへ。
「何故、って?」
あと一二〇度、あと九〇度。
「ううん、別に世界を救いたいとかそんな大それた正義を振りかざしてるわけじゃないよ」
あと六〇度、あと四五度。
「ただ、わたしの手が届く範囲は守りたい。わたしのかけがえのない大切な友達を助けたい」
あと三〇度、あと一五度。
「大好きな人を、守りたい」
あと六度。
「……それで、十分でしょう?」
零――。
*
還ってゆく自分自身の身体を見つめながら、ぼんやりと地面……と呼ぶには相応しくない、ただの暗がりに座り込む。
いつから自分はこちら側になってしまったのかなんて分かりきっている疑問を投げかけて、自嘲気味に笑った。
「……だって、ここは私の世界じゃないから」
だから、この世界の身体はこの世界へ還ってゆく。
けれどこの記憶は“少女の世界”から持ってきたもので、役目を果たした以上この世界へ還れない。
だから少女はここへ残る。時が来たら、新たな世界へ旅立つために。
あの身体には当初、本来の少女が備わっていた。
何も知らない、その身に封じられた影の存在を知らず、またそれを解放するための鍵となる能力を持たないただの少女。
だが久方ぶりに巌戸台へ訪れ、影時間に足を踏み入れた瞬間、少女は出会った。
影を解放する鍵。宇宙の意思、ワイルドの能力者たる少女自身と。
否応なしに身体はもう一人の少女を受け入れる。だがもともと、身体は一人を納めるだけの容量しか持ち得ていない。
空気を詰め込み過ぎた風船は破裂し、砂を詰め込み過ぎた袋はいずれ破れるだろう、それと同じだ。
力を得るたびに、容器である身体は軋み、ヒビが入っていった。
そうして最後あの瞬間。絆を結んだ皆から膨大な力を得、刃を振り下ろしたあの瞬間に。
少女を納める容器が音を立てて割れたのだ。
「でも、約束があるもんね」
すいと水を掬うように手のひらを裏返す。若干の肌色を残していたが、ほぼほぼ透明だった。
我先に飛び出して、続こうとする記憶をそのまま押し留め、帰した。
S.E.E.Sのリーダーとして戦った記憶を取り除き、他全ての記憶を少女の身体に預けたのだ。
しかし結局のところ、割れた容器は戻らない。
時間が経つにつれ、徐々に徐々に残った少女も容器から零れ落ち、ここで待つ少女の元へと戻ってくる。
戻るたびに、今は半透明であるこの身体は色を取り戻してゆく。
そうやって最後、完全に色を取り戻した時。身体から少女の全てが零れ落ちたその時に。少女は再び旅立たねばならない。
別の容器の中へ、新たな世界へ旅立たねばならない。
(大丈夫。ふた月もあれば、だいじょうぶ)
力は全て持ってきた。恐らくあの身体は、生活することがギリギリ可能であるレベルの力しか持ち得ていない。
だから急に揺さぶられたとしても、大きく零すことはないだろう。
それに、少女には彼がいる。きっと傍で支えてくれる。
(…………)
投げ出していた両足を手繰り寄せ、きゅっと太腿の裏へ両手を回す。
(……先輩)
顔の近くまできた両膝に、自身の瞼をあてがった。こうして目を瞑っても浮かんでくる、精悍な顔つきをした少年。
(せんぱい、元気かな……)
――……心配するな
懐かしい声。つい先ほどまで耳にしていた声。
触れば一瞬のうちに掻き消えてしまう、雪の結晶のように。その声ははらはらと舞い、少女の透けた肌に溶けてゆく。
――俺たちは必ず勝つ。勝って、この世界を存続させる。俺たちは皆、一緒に同じ未来を歩むんだ
いつでも自信に満ちたその顔が、少女はとても好きだった。
己の拳と大切な仲間、そして少女のことを、どこまでも信じくれる少年のことが好きだった。
――俺とお前は、ずっと一緒に未来を歩むんだ。なぁ、そうだろう?
どの世界へ行っても少年は少年だった。少女の知る少年でいてくれた。だから少女は、何度でも恋をした。
別の選択肢を選べば、少しは状況が変わるかもしれない。終わりのない旅に、もしかしたら終止符を打てるかもしれない。
そう、考えたこともあった。
だが、結局何一つ変わらなかった。変えることができなかった。
――母似香
大好きなその声で、少女の名を愛おしげに呼ぶ。それを耳にしてしまうと、もうなんでもいいと。
彼と出会い、そして共にあれるならなんだって構わないと、愚かにもそう思ってしまうのだ。
少女には、少年との未来は有り得ない。少年と共に在ることを許されているのは、繰り返される三三四日間。
……いや、少女がここに取り残される期間を除けば、約三〇〇日といったところか。
次に少年と出会う時、少女はこの世界での記憶を閉じる。そして再び記録を開始する。
かつてと全く同じ選択肢を選びとり、かつて歩んだ道を辿る。その先に待ち受けるのは、やはり全く変わることのない運命。
――母似香、戻ってこい……!
ああ、何度耳にしただろうその言葉。これから先、何度耳にすることになるのだろう。
「ごめんねせんぱい。もう、戻れない」
膝の頂に泉が湧き、生ぬるい温度の川が肌を滑る。
「もう戻れないの、せんぱい……」
少年はやがて青年となり、限りある未来を彼自身の足で歩いてゆくだろう。
どんな悲しみも苦しみも、その足で乗り越え走ってゆくのだろう。その先を、この目で確かめられないのはとてもとても残念だけど。
(その代わり、先輩の今はわたしが守る)
今がなければ未来は決して訪れない。絶対に軽んじてはいけないこの瞬間。
(絶対に、何度でも……守って見せるから……!)
顔を上げ制服の袖で両目を擦り、腰を上げて背伸びをするかのようにすっくと立ち上がる。
徐々に実体を帯びてゆく自分自身の身体を見つめ、深呼吸。そしてうむと頷いた。
目の前には、もはや見慣れた青の扉。向こう側にはきっと、何一つ変わらない、新しい世界が広がっているのだろう。
「さてと、いきますか!」
腰につけていた召喚器も、手になじんだ薙刀もいつのまにやら消え失せた。少女の小さな身体一つで、守るべき世界へ乗り込んでいく。
少女は少女として何度でも生まれ変わり、少年と出会い続ける。それが、少女と宇宙が交わした約束。少女の世界と引き換えに交わされた契約。
宇宙で瞬く星の数だけあなたの世界があるのなら、それら全てをわたしがこの手で守り抜こう――。
ドアノブへ手をかけ、再び瞼を閉じる。頭のてっぺんからつま先まで、もうどこを探しても透けている箇所は見当たらなかった。
ゆっくり右に回すとガチャリと音が鳴り、扉はいとも簡単に開け放たれる。右足から一歩を踏み出し、そして、
(おやすみなさい、せんぱい)
光の渦へ、吸い込まれていった。
おやすみ。おやすみ。またいつか。
話したりないこともあるけれど。
続きはまた今度、次の世界で出会えた時に。
「あ、そうそう。前に名前だけは言ったと思うが、彼が真田君だ」
おやすみ。おやすみ。ありがとう。
どうしても忘れられないことがあるんだ。
あなたがくれたその微笑み、
「よろしくな」
この心には今も昔も、いつまでも。
まるで朝焼けの空に瞬く星のよう。
いつまでも輝き続けているのです――。
宇宙の約束
She said, "I cannot return any longer."
目覚めは決して良くなかった。良い夢とは、言い難いだろう。
内容を思い返して、ふと、真田は動きを止めた。深く険しく刻まれた眉間の皺が、解け――苦い笑みが、頬を彩る。
逢えた、声を聞けた、という喜びは、それが夢の中に限定されるという現実にすぐ押しつぶされた。
目覚めたこの世界のどこにも彼女は存在しない。容赦のない事実が、失望とともに胸を満たしていく。
彼女の声を聞いたのは、何時以来だろう。
その答えを探して彼は記憶を遡り、おそらく永遠に癒えることなどないであろう傷口に辿り着く。
あのとき確かに彼女の命は失われた。だが、それが一般に言う「死」ではないことを、今の真田は知っている。
彼女はあの一年を、永久に繰り返す。それが世界を護るための代償。
メビウスの環にとらわれた彼女の時間が、彼の時間と交わるのは2009年だけ。卒業式のあの日、3月5日に二人は切り離された。
想いと絆だけを残して。
「ごめんねせんぱい。もう、戻れない」
はっきりと、胸の奥に残る、彼女の声。
「もう戻れないの、せんぱい……」
――泣いていた。
泣きながら笑おうとしていた。繰り返す2009年を受け止め、受け入れようとしていた。
伸ばした手も声も届かず、ただ光に飲み込まれたけれど。
「母似香」
声にするたびに、その音は彼の心を苛む。約束を何一つ守れなかった。守るつもりで守られていた。
思い返すほど、確かめるほど、己の無力さを思い知る。
抱えすぎた想いに、いっそ彼女とともにこの心が死んでしまえば良かったのに、と思い詰めたこともある。
だが、今は違う。
その心こそが、生きるもの全てが抱える心こそが、世界の法則を乗り越え、破壊して奇跡を呼ぶことを、真田は知っている。
その目で見、体験してきたことだ。
強い想いこそが、想いだけが、運命も契約も約束も全て塗り替えていく。辿り着いた世界の真実は、そのまま彼女を救う鍵になる。
だから、彼は諦めない。想いを捨てない。
「お前らしくないな」
胸元で握りしめた拳の奥、古来より心が存在すると言われている場所が、少しだけ軋んだ。
「話したいことが沢山あるんだ、だから」
暗く沈んでいた部屋に、朝日がじわりと差し込む。
輪郭がぼやけだした窓を睨むように見つめて、真田はただ真っ直ぐに言葉を紡ぐ。
「絶対に、叩き起こしてやる」
お前がそれを運命だと諦めるなら。約束だと納得するなら。その場から逃げ出せないと思っているなら。
それはお前の思いこみで真実ではないと――
希望について
――俺は、語ろう。
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